平成15年度1次試験解答:経営法務
設問1
解答:設問1:エ 設問2:イ
(設問1)
【 A 】: 直接有限責任か間接有限責任かの区別は、社員が会社債権者から直接個人的責任を追及されるか否かにより区別される。
株式会社、有限会社は、間接有限責任社員から成る会社である。また合名・合資会社の社員は直接有限責任社員、直接無限責任社員から成る。
【 B 】:合名会社は、社員全員が直接無限責任社員で構成される会社である。 また合資会社は、直接無限責任社員と直接有限責任社員との両方で構成される会社である。ともに自己の全財産をもって会社債務の弁済を負う直接無限責任社員がいる以上、債権者保護のための資本制度を設ける必要がない。
よって解答はエである。
(ア) | 株式会社では、株式の譲渡は原則として自由とされているが、定款に譲渡制限の規定を設けることができる。 →○:株式会社では原則として、自由に株式を譲渡できる(株式譲渡自由の原則)が定款に譲渡制限の規定を設けることもできる。 |
(イ) | 合資会社では、有限責任社員に業務執行の権限はなく、有限責任社員が持分を譲渡するには他の社員全員の承諾が必要である。 →×:合資会社では、有限責任社員が持分を譲渡するには、他の社員全員の承諾ではなく、無限責任社員全員の承諾が必要である。 |
(ウ) | 合名会社では、社員には原則として業務執行権があり、持分の譲渡は社員に対する場合であると否とを問わず、他の社員全員の承諾が必要である。 →○:合名会社は、社員全員が直接無限責任社員で構成される会社である。よって社員全員が強い利害関係をもっているので、社員全員に業務執行権があり、持分の譲渡は社員に対する場合であると否とを問わず、他の社員全員の承諾が必要である。 |
(エ) | 有限会社は、法の予定する会社の規模が限定されたものであることから、持分を社員ではない者に譲渡するには社員総会の承認が必要である。 →○:有限会社では、元々小規模閉鎖性が予定されている。したがって持分を社員に譲渡することは自由であるが、社員以外の者に譲渡するには社員総会の承認が必要である。 会社法施行により有限会社は廃止される。同様に有限会社法は廃止される。 |
設問2
解答:設問1:ウ 設問2:ウ
甲 | 「株式会社や有限会社の最低資本金規制が緩和されたと聞きました。株式会社については、資本金が1、000万円に満たなくても設立できるようになったのですか。」 |
乙 | 「はい。正確には資本金【A:1円】 以上で設立できるようになったのです。」 |
甲 | 「誰でもそのような資本金で株式会社を設立できるのですか。」 |
乙 | 「いいえ。経済産業大臣から創業者であることの確認を受けたものだけが設立できます。」 |
甲 | 「設立から【B:5年】を経過する日までに商法上の最低資本金額まで増資できない場合は【C:解散】や組織変更が必要になるとのことですね。その他に特別な規制はありますか。」 |
乙 | 「配当可能利益の計算をする場合、純資産額から【D:最低資本金額】を控除しなければなりません。」 |
会社法施行後は最低資本金の規制は撤廃される。
よって解答はウである。
(設問2)
「創業者」とは、「事業を営んでいない個人」で、2ヶ月以内に新しい会社を設立・事業開始を計画している人のことを示します。(新事業創出促進法第2条2項3号)
よって解答はウである。
設問3
解答:設問1:ウ 設問2:ア 設問3:イ
(ア) | 既存の会社の営業を新たに設立する会社に移転し、その対価として新たに設立する会社の株式を収得する方法 →×:新設分割のことである。 |
(イ) | 既存の会社の営業を他の既存の会社に移転し、その対価として営業の移転を受けた会社の株式を収得する方法 →×:吸収分割のことである。 |
(ウ) | 既存の会社の株主の所有する当該会社の株式を、新たに設立する会社の所有にする方法 →○:株式移転とは、新設の会社(株式移転設立完全親会社)の株式と子会社化したい会社(株式移転完全子会社)の株式を交換する方法である。 |
(エ) | 既存の会社の株主の所有する当該会社の株式を、他の既存の会社の所有にする方法 →×:株式交換のことである。 |
よってウが解答である。
(設問2)
合併に関する問題である。
合併には吸収合併と新設合併がある。
- 吸収合併
- 合併する2社以上の会社のうち、1社が存続し、他の会社が解散するものである。解散会社の全ての財産は存続会社に継承される。
- 新設合併
- 合併する2社が解散すると同時に新設会社を設立するものである。解散会社の全ての財産は新設会社に継承される。
新設合併には時間とコストがかさむので、実務上利用されるのが圧倒的に多いのは吸収合併である。
(ア) | いずれも株主の個別の同意を得る必要がない →○:株主総会の特別決議が必要であるが、株主の個別の同意は不要である。 |
(イ) | いずれも債権者保護手続が必要である →×:合併においては、相手方の会社の財務内容次第で合併後の会社の資力が悪化するなど債権者が不利益を被る可能性があるので債権者保護手続きは必要である。しかし、株式交換は会社財産の変更を伴うものではないので、原則として債務者保護手続きは不要である。 |
(ウ) | いずれも当事者となる会社において、原則として、株主総会の特別決議が必要である →○:合併、株式交換のいずれにおいても株主総会の特別決議が必要である。 |
(エ) | いずれも法定事項を定めた契約書の作成が必要である →○:合併の場合には合併契約書、株式交換の場合には株式交換契約書といった契約書の作成が必要である。 |
設問4
解答:設問1:イ 設問2:ウ
(設問1)
労働契約承継法からの出題である。会社分割に伴い、分割契約書にその者と甲会社の労働契約を乙会社に承継する旨の記載があった場合、原則として労働契約は乙会社に承継される。ただし、異議を申し出れば、本人の意向に従い、労働契約は承継されない。
第5条 第2条第1項第2号に掲げる労働者は、同項の通知がされた日から期限日までの間に、分割会社に対し、当該労働者が当該分割会社との間で締結している労働契約が設立会社等に承継されることについて、書面により、異議を申し出ることができる。
2 前条第2項及び第3項の規定は、前項の場合について準用する。
3 第1項に規定する労働者が同項の異議を申し出たときは、商法第374条ノ10第1項(有限会社法第63条ノ6第1項において準用する場合を含む。)又は商法第374条ノ26第1項(有限会社法第63条ノ9第1項において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、当該労働者が分割会社との間で締結している労働契約は、設立会社等に承継されないものとする。
よって解答はイである。
【 A 】: | 労働契約の承継等に関する法律では正社員に限らずパート等にも採用される。 |
【 B 】: | 同法は会社分割について定められた法律であり合併に伴う労働契約の承継には適用されない。 |
よって解答はウである。
設問5
解答:イ
【 A 】民事再生手続きは破産手続開始原因の生ずる恐れがある状態であれば申し立てできる。よって、【 A 】には「いいえ、債務超過でなくてもできます」が入る。
【 B 】民事再生手続において、資産の評価は清算価値により評価される。よって【 B 】には「清算価値です」が入る。
▼民事再生法第124条
1 再生債務者等は、再生手続開始後(管財人については、その就職の後)遅滞なく、再生債務者に属する一切の財産につき再生手続開始の時における価額を評定しなければならない。
2 再生債務者等は、前項の規定による評定を完了したときは、直ちに再生手続開始の時における財産目録及び貸借対照表を作成し、これらを裁判所に提出しなければならない。
3 裁判所は、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、評価人を選任し、再生債務者の財産の評価を命ずることができる。
【 C 】破産手続きをした場合などの清算価値より高い弁済率であることが民事再生制度の本質である。たとえ債権者集会で可決されたとしても、問題文のような再生計画案は認可されない。よって、【 C 】には「いいえ、させてもらえません」が入る。
【 D 】再生計画案の可決の要件は、議決権者の過半数の同意かつ議決権者の総額2分の1以上を有するものの同意が必要である。すなわち、議決権者で債権者集会に出席した者の頭数の51%で、議決権者の議決権の総額の50%だった場合は可決される。よって、【 D 】には「させます」が入る。
再生計画案を可決するには、次に掲げる同意のいずれもがなければならない。
一 議決権者(債権者集会に出席し、又は第百六十九条第二項第二号に規定する書面等投票をしたものに限る。)の過半数の同意
二 議決権者の議決権の総額の二分の一以上の議決権を有する者の同意
設問6
解答:エ
(ア) | 会社Xが職務発明aについて特許権Bを取得した場合、従業員Aは、職務発明aの発明者であるから、職務発明aについては、自ら実施する場合に限り発明者特権として実施をする権利が認められている。 →×:就業規則で特許を受ける権利は会社Xに譲渡する旨が定められている為、従業員Aには発明者特権は認められない。※ただし対価を受ける権利は有する。 |
(イ) | 従業員A がした職務発明aについての特許を受ける権利は、特許法上原始的に会社Xに帰属するものであるから、その従業員Aがした職務発明aについての特許出願人としては、会社Xのみがなれる。 →×:原始的に会社Xに帰属するものではない。特許を受ける権利は、原始的に発明をした従業員Aに帰属する。 |
(ウ) | 従業員A が職務発明a について、会社X に無断で自分を出願人として特許出願をし、特許権を得た場合、就業規則において職務発明a についての特許を受ける権利の譲渡が規定されているのであるから、その従業員A が自分の費用でその特許を取得したとしても、その特許は無効である。 →×:会社は従業員が特許を譲渡することにより特許権を取得する。その為、従業員が就業規則に反して特許権を取得した場合においても、特許は有効である。※ただし会社から損害賠償請求等を受ける可能性はある。 |
(エ) | 従業員A は、会社X に在職中にした職務発明aを在職中、隠し持ち、会社Xを退職後に、職務発明aについての特許を受ける権利を会社Yに譲渡し、会社Yが特許出願をして特許権Bを取得した。その後、会社Xが会社Yに無断で特許権Bに係る特許発明を実施したところ、特許権Bの権利者である会社Yからロイヤリティの支払いを求められた。 この場合、会社X は、会社Y のロイヤリティ支払請求に応じる必要はない。 →○:会社Xは特許権B について通常実施権を有する(特許法第35条1項)。よって会社Y からのロイヤリティ支払請求に応じる必要はない。 |
(職務発明)
第35条
1 使用者、法人、国又は地方公共団体(以下「使用者等」という。)は、従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業者等」という。)がその性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明(以下「職務発明」という。)について特許を受けたとき、又は職務発明について特許を受ける権利を承継した者がその発明について特許を受けたときは、その特許権について通常実施権を有する。
2 従業者等がした発明については、その発明が職務発明である場合を除き、あらかじめ使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ又は使用者等のため専用実施権を設定することを定めた契約、勤務規則その他の定めの条項は、無効とする。
3 従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより、職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、又は使用者等のため専用実施権を設定したときは、相当の対価の支払を受ける権利を有する。
4 契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の対価について定める場合には、対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認められるものであつてはならない。
5 前項の対価についての定めがない場合又はその定めたところにより対価を支払うことが同項の規定により不合理と認められる場合には、第3項の対価の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない。
設問7
解答:ウ
(ア) | 会社X の製造販売する製品A が、会社Y の保有する特許権B に係る特許発明の技術的範囲に属するか否かの判定を特許庁に請求する。 →×:時間を要するため、最初に取るべき行動としてはふさわしくない。 |
(イ) | 会社Y に謝罪して、すぐに製造販売を中止し、市場に出回っている製品A を回収する。 →×:相手方の主張の法的根拠を確かめずに、謝罪したり製造販売を中止し回収する事は、論外である。 |
(ウ) | 会社Y の保有する特許権B が、会社Y の保有する特許権として現在有効に存続しているかどうかを調査する。 →○:相手方の主張の法的根拠をまず確かめるべきである。 |
(エ) | 直ちに会社Y の保有する特許権B の特許無効の審判を特許庁に請求し、会社Yとのライセンス交渉に入る。 →×:相手方の主張の法的根拠を確かめずにライセンス交渉に入る必要はない。また特許無効の審判を行い、一方ではライセンス交渉に入るのは矛盾している。 |
設問8
解答:設問1:ウ
(ア) | 会社Y に対し会社Z が製品b を製造販売する行為を止めさせるように要求し、会社Y が会社Z の製造販売行為を止めるための積極的行動を起こさないときは、 会社Y に対して損害賠償を請求する。 →×:通常実施権者である会社Xは、自ら損害賠償請求や差し止め請求をすることはできないので、会社Yに対して製造販売行為を止めさせるように要求する事は正しい。ただし、会社Yは、会社Xに対して実施を許諾する契約内容以上の義務を負うものではないので、会社Xは会社Yに対して損害賠償を請求することはできない。 |
(イ) | 会社Z が製造販売する特許に係る製品b を買い占め、会社Y に買い取らせる。 →×:会社Yが製品bを買い取る義務はない。 |
(ウ) | 会社Z が製品b を製造販売する行為を止めさせる積極的意思が会社Y に無い場合は、会社X は会社Y の同意を得て、会社Z に対し、会社Y に代わって特許権侵害で製造販売の差し止めの請求を行う。 →○:会社Xは債権者代位権を有するので正しい。債権者代位権とは、債権者(会社X)が債務者(会社Y)の持っている権利を債務者(会社Y)自身に代わって行使する権利のことである。 |
(エ) | 会社Z の製品b を製造販売する行為は、会社X の通常実施権の侵害に当たるから、会社Z の製品b を製造販売する行為を中止する仮処分を申請する。 →×:会社Z の製品b を製造販売する行為は、会社Yの特許権を侵害するものではあるが、会社X の通常実施権の侵害に当たらないものと考えられる。従って、会社Yが会社Z の製品b を製造販売する行為を中止する仮処分を申請することはできない。 |
設問9
解答:エ
(ア) | 会社X がケーキを指定商品として商標『○○』について、会社Y がケーキを指定商品として商標『○△』について、それぞれ商標登録出願を行った場合、会社Xの商標『○○』の使用の方が、会社Y の商標『○△』の使用より早いので、会社Yの商標『○△』についての商標登録出願日が、会社X の商標『○○』についての商標登録出願日よりも先の場合には、商標『○△』、商標『○○』の両方共に登録になる。 →×:商標法は、先に出願した者で登録を受けた者が、その権利の所有者になる(先願主義)。両方ともに登録されることはない。 |
(イ) | 会社X は、会社Y がケーキB に商標『○△』を使用し始める日より1年も前に、ケーキA に商標『○○』の使用を始めているので、会社X には先使用権が認められており、ケーキA に商標『○○』を継続して使用することができ、たとえ、会社Y がケーキを指定商品として商標『○△』について商標権を取得しても、会社Xに対して商標権に基づく権利行使をすることは許されない。 →×:会社Xに先使用権が認められるためには、当該商標が周知である必要がある。会社Xの販売するケーキの商標『○○』は周知になるには至っていない。よって会社Y がケーキを指定商品として商標『○△』について商標権を取得した場合、会社Xに対して商標権に基づく権利行使をすることは許される。 |
(ウ) | 会社Y がケーキを指定商品として商標『○△』について商標登録を受けるためには、ケーキに商標『○△』を使用することについて承諾する旨の会社X の同意書の提出が必要である。 →×:会社X の同意書は不要である。 |
(エ) | 会社Y は、会社X が現在ケーキA に使用している商標『○○』を付したケーキA の販売を全国展開しようとするときは、その使用を差し止めることができる。 →○:会社Xの販売するケーキの商標『○○』は周知になるには至っていないので、先使用権は認められていない。一方会社Yの販売するケーキの商標『○△』は著名になっている。よって著名表示冒用行為にあたると解釈され、使用を差し止めできる可能性はある。 |
設問10
解答:イ
(ア) | 温泉ホテルY が、温泉旅館X の保有する登録商標『○○』を「温泉饅頭」に付して売り出すに当たって、温泉ホテルY のホテル内限定で販売するのであれば、温泉旅館X の保有する商標権A の侵害にはならない。 →×:ホテル限定販売であっても有償で、不特定多数の温泉客に販売しているので商標権Aの侵害となり得る。 |
(イ) | 温泉旅館X が保有する登録商標『○○』を「温泉饅頭」に付して大々的に売り出す温泉ホテルY の行為は、同じ温泉宿を営む同業者が販売するものであり、登録商標『○○』が付された「温泉饅頭」を購入する客は、登録商標『○○』の付された「温泉饅頭」が温泉旅館X の販売する商品と混同を生じるので、温泉旅館Xの保有する商標権A の侵害になる。 →○:範囲に類似性があるので、商標権侵害になる可能性はある。 |
(ウ) | 温泉旅館X が保有する登録商標『○○』を「スリッパ」に付して、その「スリッパ」を販売する温泉ホテルY の行為は、「スリッパ」が温泉旅館X で宿泊客に日常的に提供されるものであり、登録商標『○○』が付された「スリッパ」を購入する者は、その「スリッパ」が温泉旅館X によって販売される「スリッパ」であると認識することになるので、温泉旅館X の保有する商標権A の侵害になる。 →×:温泉旅館がスリッパを販売するのは一般的ではないので商標権A の侵害にはあたらない。 |
(エ) | 温泉旅館X が保有する登録商標『○○』を付した「スリッパ」をホテルで宿泊客に提供する温泉ホテルY の行為は、登録商標『○○』を付した「スリッパ」を温泉ホテルY 内で宿泊客が自由に利用できるように提供されているものであるから、温泉旅館X の保有する『宿泊施設の提供』を指定役務とする商標『○○』について商標権A の侵害になる。 →×:無償かつ店舗内使用の場合には商標権A の侵害にならない |