平成23年度1次試験問題:企業経営理論
設問11
グローバル化の進展とともに日本企業が海外に工場を開設する動きが活発化している。しかし、海外進出は国際化に必要な経営資源が不足する中小企業にとっては容易ではない。そのため中小企業では商社に仲介を受けながら、現地パートナーと合弁企業を営む例が見られる。そのような海外進出で考慮すべき点の記述として、最も不適切なものはどれか。
【解答群】 (ア) 現地のパートナー企業の技術力が弱い場合、商社を介在して高品質の原材料を持ち込んだり、進出企業による現地での技術指導を通じて製品の品質が低下しないようにすることは重要な経営のポイントになる。 (イ) 現地のパートナー企業や現地国はわが国の企業の進んだ技術の移転を求めているが、自社技術の保護の観点から、商社等に協力してもらって、合弁事業開始前に、守るべき技術や製品の模倣禁止等に関して詳細な規定を含む合弁事業契約をパートナー企業と締結しておくことが重要になる。 (ウ) 合弁事業の出資割合は出資企業がその比率に応じて合弁事業の経営に努力を傾注する程度を示すが、商社や現地企業は概してその経営努力とは無関係に配当を要求することでトラブルになることに注意することが重要になる。 (工) 商社が、情報能力を活かして進出企業に現地の各種情報を伝えたり、現地の法務等の対応を図ってくれるので、進出企業は現地国で工場のオペレーションに経営努力を傾注できる利点がある。 (オ) パートナー企業の合弁事業以外での業務実態について見落とすと、守秘義務条項や競合禁止条項が破られ、製品の模倣が行われ、現地市場を失うばかりか、進出企業の信用を失墜しかねないので、現地駐在社員の現場の監視能力の向上を図ることが重要である。
設問12
企業組織は、一般に分業と協業のシステムとして階層性という特徴を持っている。この組織編成に関する記述として最も適切なものはどれか。
【解答群】 (ア) イノベーションを目的とした組織においては指揮命令系統の一元性が確保されていなければならないので、階層組織よりはグループ型のフラットな組織が望ましい。 (イ) 管理者の職務に関する事業の範囲やタイムスパンの責任に応じて、組織は階層を設計する必要がある。 (ウ) 組織における職務の公式化を進めることによって、管理者の統制範囲(span of control)は狭くなるので、階層数は増える傾向にある。 (工) 組織の階層を構成する中間管理職の職務について、責任と権限が公式に一致しなければならない。 (オ) 不確実性が高い環境下では、分権化を進めるために、階層のないフラットな構造にすることが望ましい。
設問13
動機づけに関する概念モデルの1つに「職務特性モデル」がある。この概念モデルについての記述として、最も不適切なものはどれか。
【解答群】 (ア) 個人の動機づけは、仕事の業績評価システム、上司や先輩を通じてのフィードバックの程度に影響される。 (イ) 個人の動機づけは、仕事の出来栄えが社内の人々や顧客に、どれほどのインパクトをもたらすかの程度に影響される。 (ウ) 個人の動機づけは、仕事の流れの全体像にかかわっている程度に影響される。 (工) 個人の動機づけは、仕事をうまく遂行する上で必要なスキル(技能)の多様性の程度に影響される。 (オ) 個人の動機づけは、担当する仕事の範囲で、自主的に工夫して仕事のやり方を決められる程度に影響される。
設問14
日本企業において人事制度の見直しが進んでいる。事業構造の再構築のなかで、成果に応じて格差のある報酬配分を行うことのメリットとデメリットを調和させた導入が重要になる。
これに関する記述として、最も不適切なものはどれか。
【解答群】 (ア) 新たな報酬制度を運用する際には、評価者と被評価者が意見を交わしながら目標管理シートを作成するなど、意思疎通の機会を通して満足感を高めるとよい。 (イ) 職場には既存の文化や風土、価値観が存在するため、新たな評価制度を導入する際には、その基準や手続きに関して十分に理解されるための時間が必要である。 (ウ) 評価者が被評価者の全般的な要望や意見を説明しながら評価を行ったならば、評価結果が期待したほどでない場合でも、不公正感が抑えられ、動機づけを高めることができる。 (工) 評価に対する納得感は、自己比較とともに他者相対比較の側面もあることから、適切に動機づけを高めるためには、社内の公正な評価制度に関する情報開示が必要となる。 (オ) 自らが投入した時間・努力量や成果と、それに対する評価・報酬とが見合うならば、人は公正感を感じる。
設問15
優れた人材を採用し、定着率を高め、能力を高めるには、キャリア開発プログラムを充実させておく必要がある。キャリア開発プログラムに関する記述として最も適切なものはどれか。
【解答群】 (ア) キャリア開発の公平性を期すために、直属の上司による評価ではなく、人事部のような中立的機関が客観的評価基準を用意する必要がある。 (イ) キャリア開発プログラムは人事部のようなスタッフ部門ではなく、ラインの管理者の責任において策定される必要がある。 (ウ) キャリア開発は、組織階層を昇進することだけでなく、よりチャレンジングで魅力的なプロジェクトに参加させることを通じてなされる。 (工) 経営戦略や事業計画は頻繁に変化するので、キャリア開発プログラムはそうした計画とは独立に長期的視点から設計しなければならない。 (オ) キャリア開発プログラムにおけるメンタリングでは、メンターがプライバシーに十分配慮し、自身の職務経験を基礎にした公式のアドバイスをするよう訓練される必要がある。