平成19年度1次試験問題:企業経営理論
設問16
次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。
現代の企業は、必要な経営資源のすべてを自社内に所有することはほとんど不可能であり、企業の外部にある経営資源をコントロールする必要がある。そのために、@他の組織と望ましい組織間関係を構築したり、Aドメインに影響を与え経営環境を操作しようとする。
(設問1)
文中の下線部@の組織間関係の構築に関する記述として、最も不適切なものは どれか。
【解答群】 (ア) ある企業の取締役が、資源依存関係にある他の企業の取締役に就任することを通じて、両社の利害関係を調整したり、経営政策や意思決定に影響を与えることができる。 (イ) 企業は買収を通じて、他の企業の一部または全部の経営資源を直接コントロールする権利を手にすることができる。 (ウ) 企業はライセンス契約を通じて、自社の独立性を確保しつつ、不足する経営資源に関する不確実性を軽減することができる。 (工) 相互に補完的関係にある複数の企業が、共同で独立した合併企業を作ることを通じて、その合併企業の親会社の影響を受けずに、イノベーションや事業に関するリスクとコストを分散することができる。
(設問2)
文中の下線部Aのドメインに影響を与える環境操作戦略に関する記述として、 最も不適切なものはどれか。
【解答群】 (ア) 同じような利害をもつ他の企業と共同で業界団体などの組織をつくることを通じて、企業は自らの製品やサービスの正当性を確保することができる。 (イ) 広報活動は企業が情報を提供することを通じて、利害関係者集団に影響を与え、企業に対して好ましいイメージを持ってもらうために行われる。 (ウ) 戦略的選択とは、企業が多角化や事業の売却、資源調達先の多様化を通じて、ドメインそのものを変化させることをいう。 (工) 法律や行政による規制は、企業が獲得・利用できる資源に重要な影響を与えるが、内部資源にはその影響が及ばないため、企業は内部資源を増やす傾向にある。
設問17
動機づけの過程理論と呼ばれるものには、目標設定理論(goal-setting theory)や公平理論(equity theory)、期待理論(expectancy theory)などがある。これらの理論に関する記述として最も適切なものはどれか。
【解答群】 (ア) 期待理論によると、ある努力をした結果高い成果が生まれたにもかかわらず、低い報酬しか得られなかった場合、従業員は報酬の誘意性に関する主観確率を高く見積もる傾向がある。 (イ) 公平理論によると、時間給制度のもとで、過大な報酬をもらっていると感じている従業員は、公平な報酬を得ている従業員と比較して生産量を減らそうとする。 (ウ) 公平理論によると、出来高給制度の下では、過大な報酬をもらっていると感じている従業員は、公平な報酬を得ている従業員と比較して生産量を低く抑え、品質を高くするよう努力する。 (工) 目標設定理論によると、従業員が目標の設定に参加した場合のほうが、目標が与えられた場合と比べ、高い業績を達成すると考えられる。 (オ) 目標設定理論によると、従業員により困難な目標を与えたほうが、高い業績を生むと期待される。
設問18
企業組織を、組織それ自体の構造や管理・コントロールに責任を持つ「経営管理コア(administrative core)」と、原材料等を製品やサービスに変換するビジネスプロセスに責任を負う「技術コア(technical core)」という2つのコアからなるものと考えることができる。組織階層上は、経営管理コアは技術コアの上位に位置する。このとき、組織構造や経営戦略の変革に関する記述として最も適切なものはどれ か。
【解答群】 (ア) 主に技術革新によって成長してきた企業が、事業を再構築したり報酬システムを変更する場合には、経営管理コアから中央集権的に変革をリードする必要がある。 (イ) 技術革新や生産工程の変革などは、技術コアを中心とした、機械的な組織構造を通じて促進される傾向にある。 (ウ) 経営管理コアのイノベーションを頻繁に行う必要のある組織は、技術コアを有機的な組織に維持しておき、ボトムアップで変革を行う必要がある。 (工) 戦略の変更や組織のダウンサイジングなど重要な意思決定は、分権化された経営管理コアが有機的な組織として主導する必要がある。 (オ) ボトムアップ形式で技術革新を行ってきた企業が危機に直面した場合、技術コアを中心とした有機的な組織が中心となって経営管理コアの変革を促進する必要がある。
設問19
次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。
A社は産業用中間財部品を生産する中規模の企業で、機能部門別組織構造を採用 している。売上高・利益率ともに、2年連続して低下してきたため、コンサルタン トに調査・分析を依頼した。コンサルタントのヒアリングに対し、A社の社長や各部長は次のように答えたという。
社長 | : | 「年度計画や中期計画を策定することや財務管理の機能については私が責任を負っているが、技術革新の速度も比較的速く、顧客企業の要求もさまざまであるために、基本的に部長たちに事業に関する権限のほとんどは委譲している。各部門間の調整は、毎週の業務報告書と電話で行っているはずです。」 |
研究開発 部長 |
: | わが社の技術力は比較的高く、技術者はそのことに誇りを持っている。技術はある程度速く変化しており、開発した製品に自信はあるが、最近営業部門から顧客ニーズに関する情報が入ってこなくなっている。業績悪化の原因は営業力の弱さにあるのではないだろうか。」 |
製造部長 | : | 「工場のものづくり能力は同業他社に比べて高いと思います。不良品の率も低いし、製造原価も最低限に抑えています。しかし、研究開発部門から提案される製品が、なかなかそのままでは量産できなかったりするので、しばしばこちらで若干のデザイン修正を行う必要があります。」 |
営業 部長 | : | 「営業部門の社員はよく働いています。お客様のニーズに合わせて勤務時間外の労働もいとわない者たちです。お客様には、わが社の製品は技術的には品質も優れているとは言われるのですが、価格が高すぎるところと、新製品の開発が他社に比べて若干遅くなる点が弱点ではないでしょうか。」 |
(設問1)
このヒアリングから判断して、A社の組織をどのように分析するか。最も適切なものを選べ。
【解答群】 (ア) 各部門に暗黙知を蓄積するメカニズムがないため、知識創造が適切に行われていない。 (イ) 各部門のコスト意識が低いため、利益率が低下している。 (ウ) 各部門の専門能力は高いものの、それが「訓練された無能(skilled incompetence)」につながり、シングルループ学習が促進される組織文化になっている。 (工) 官僚制的組織文化が形成されてきており、部門間の壁が高くなってしまっているため、部門間調整が十分にできていない。 (オ) 研究開発部門や製造部門に比べて、営業部門の営業力が弱く、収益性の低下につながっている。
(設問2)
このヒアリングからみて、A社の組織改善の方向性をどのように判断するか。 最も適切なものを選べ。
【解答群】 (ア) 各部門の情報共有を促進し、社長を含め部長たちが直接会合などで意見交換できる機会を増やす。 (イ) 研究開発部門と製造部門の従業員を若干減らし、営業部門の人員を強化する。 (ウ) 事業部制組織を採用して、より分権化を促進し、PPMなどを通じて財務管理を強化する。 (工) 社長に権限の多くを集中し、中央集権的に部門間調整ができるようにする。 (オ) 社内に電子メールシステムなどを導入し、直接会わなくても、情報の交換ができるようにする。
設問20
個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律が施行されているが、この法律の中で「あっせん」制度が紛争解決の方法として活用されている。その「あっせん」の申請に関する記述として、最も不適切なものはどれか。
【解答群】 (ア) 「あっせん」の申請が、個々の労働者に係る事項のみならず、これを越えて、事業所全体にわたる制度の創設、賃金額の増加等を求めるいわゆる利益紛争を目的としたものでなければならない。 (イ) 「あっせん」の申請は、申請手続を代理人が行う場合を含め、紛争当事者本人の名義で行わなければならない。 (ウ) 「あっせん」の申請は、紛争当事者である労働者及び事業主の双方、または一方のいずれからもすることができる。 (工) 「あっせん」の申請は、紛争当事者である労働者に係る事業場の所在地を管轄する都道府県労働局長にしなければならない。