平成15年度1次試験解答:企業経営理論
設問1
解答:ウ
(ア) | 下請関係では、株式の相互持合いが前提になっているから。 →×:下請関係は、株式の持合いが前提となってはいない |
(イ) | 多数の取引先企業のうち、最も安価な納入単価の企業だけが生き残るから。 →×:最も安価な納入単価の企業だけが生き残っているわけではない。納期や品質なども生き残りの要因である。 |
(ウ) | 特殊化した生産技術によって結ばれているため、親企業が下請企業を切り替えると不利益になるから。 |
(工) | 取引相手の選別に取引コストがかかりすぎるので、既存の取引が温存されるから。 →×:取引相手の選別に取引コストがかかりすぎるとは一概にはいえない。 |
設問2
解答:設問1:ウ 設問2:エ(b とd)
(ア) | JIS 規格の認証が業界標準には不可欠である。 →×:デファクトスタンダードとは、国際機関や標準化団体による公的な標準ではなく、市場の実勢によって事実上の標準とみなされるようになった規格・製品である。すなわち、JIS 規格の認証は不要である。 |
(イ) | 技術的優位性がデファクト・スタンダードを決定づける。 →×:市場競争の結果、必ずしも技術的優位性のある規格が競争に勝利し、デファクト・スタンダードになるとは限らない。規格を採用するメーカーやユーザーをいかに多く獲得するかがデファクト・スタンダードとなるためのカギとなります。 |
(ウ) | 当該規格の普及率がデファクト・スタンダードの決め手になる。 →○:特定の規格が他の規格に比べて相対的に優位に立てるかどうかは、どれだけ多数の企業をその統一規格に参加させることができるか、すなわち、その規格をどれだけ普及させることができるかが決定的に重要である。 |
(工) | 標準化機関がデファクト・スタンダードの決定を行っている。 →×:標準化機関がデファクト・スタンダードを決めるわけではない。ただし公的な標準化団体がすでにデファクトスタンダードとなった仕様を公的な標準規格として追認することはある。 |
(a) | クリティカル・マスを狙って、クリーム・スキミング戦略を展開する。 →×:クリティカル・マスとは、多くの人が商品やサービスを受け入れることができる利用価値が達成されるために、最小限必要とされる市場普及率のことである。 またクリーム・スキミング戦略とは、事業者が収益性の高い分野のみにサービスを集中させること、すなわち「おいしいとこどり」のことである。当然デファクトスタンダードにはなりにくい。クリーム・スキミング戦略をとることは収益性の高い分野のみにサービスを集中させるので、クリティカル・マスに達しにくい。 |
(b) | ネットワーク外部性を働かせて、ユーザーの便益を高める。 →○:ネットワーク外部性とは、その製品やサービスの利用者が増加するにしたがって、利用者の便益が高まる効果を指すものである。利用者数が増えれば増えるほど、雪だるま式にユーザの便益も高まる。 |
(c) | 補完財の参入を封じ込め、市場を独占する。 →×:補完財とはコーヒーとミルク、 自動車とタイヤといった主製品と一緒に買う製品のことである。補完財が多ければ多いほど利用者の選択肢は増えることになる。すなわち補完財の参入を封じ込めると利用者の選択肢は少なくなり利用者に買い控えが発生する可能性が高くなる為、デファクト・スタンダードになりにくい。 |
(d) | 多様な方策や営業努力を積み重ね、利用者をいち早く増やす。 →○:正しい。特にネットワーク外部性が働く場合は利用者をいち早く増やすことが可能である。 |
設問3
解答:設問1:ウ 設問2:イ
(ア) | ある変異特性を持った企業が生き残るには、同類が多くならないようにその特性の普及を防ぐべきである。 →×:差別化などによって業界内で特別な存在になったとしても、すぐに模倣されては存在感はなくなる。また特性が業界内に普及しなければ、単に異質なものとして扱われ、衰退することになる。 |
(イ) | 経営資源が最も豊富な企業が、最強の企業として勝ち残る。 →×:経営資源が豊富にあっても環境変化に対応できない場合は衰退することになる。 |
(ウ) | 自然淘汰が展開され、環境に適した変異特性を持つ企業が選択される。 →○: 変異の結果、環境に適合できなくなった企業は自然的に淘汰される。 |
(工) | 敵対的な環境条件で生き残るために、分権的な管理によって活発に変革を図る。 →×:分権的な管理は、現場の状況に対応はしやすい。しかし、敵対的な環境条件で生き残るためには、トップマネジメントの計画や意図に沿った行動が迅速にできる集権的な管理の方が望ましい。 |
(ア) | 新しく生まれた企業は古い企業に比べて消滅率が高い。 →○:新しく生まれた企業は古い企業に比べて従業員間の関係・役割分担や対外的な信頼が築かれていない。また古い企業は他の企業との強いつながりをもっている。すなわち、新しい企業は古い企業に比べて消滅率が高い。 |
(イ) | 業界の企業数は市場の規模に依存するが、企業の戦略行動に影響を与えることはない。 →×:一般的に市場の規模が大きいほど、そこに生息する企業は多いので前半部分は正しい。しかし後半部分の「企業の戦略行動に影響を与えることはない。」という記述は誤りである。一定市場に多数の企業が競合している場合と、少数の企業が存在している場合とでは、企業の戦略行動には当然相違が生じる。 |
(ウ) | 業界を構成する企業数が増えるにつれて業界の社会的な認知は高まるが、企業数の増加は競争を激化させる。 →○:正しい |
(工) | 個々の企業群は、ある時期支配的であった戦略や組織形態を維持する傾向がみられる。 →○:正しい |
(オ) | 古い企業は環境適応力を次第に失い、環境の変化が起こると消滅しやすくなる。 →○:正しい |
設問4
解答:ウ
リーダー企業がとりうる戦略には次のものがある。
- 周辺需要の拡大
- 同質化(他企業の差別化を模倣・追随して無効化する方法)
- 非価格競争
- シェアの維持
(ア) | 経営資源の優位性を生かして、非価格競争をする。 →○:3より正しい。 |
(イ) | 市場全体を広げるべく周辺需要の拡大を図る。 →○:1より正しい。 |
(ウ) | フォロワー企業の商品の模倣や追随はしない。 →×:他企業が差別化によって攻撃を仕掛けてきた場合は優位な立場から模倣・追随して差別化を無効にする同質化を行なうべきである。 |
(工) | マーケット・シェアを高めて、フォロワー企業に差をつける。 →○:マーケット・シェアを高めて、リーダーの座を安定化するべきである。 |
設問5
解答:ウ(b とc)
(a) | 形式化された定常的な情報のフローが膨大で、企業が必要な情報を特定化する能力を超えている。 →×:「形式化された定常的な情報」とは形式化された情報といえる。これらの情報を特定化する事は容易である。企業が特定化することが困難なのは、形式化されにくい非定性的な情報やソフト・データである。 |
(b) | 重要な情報は特定の箇所に偏在する傾向が強く、入手にコストとリスクがかかる。 |
(c) | 情報の受け手の吸収能力や送り手への信頼が低い場合、情報を移転することが困難である。 →○:情報の価値は受け手によって判断される。すなわち、受け手の吸収能力や送り手への信頼が低い場合、情報を移転することが困難である。 |
(d) | 情報技術の進歩によって情報の移転コストは低下したが、情報の単位当たり処理コストは上昇している。 →×:情報技術の進歩によって情報の移転コスト、情報の単位あたり処理コストは低下している。 |
設問6
解答:オ
(ア) | 多数の企業が完全競争する業界では、価格メカニズムが正常に働くので、合理的な意思決定が実現されて、企業の収益性は概してよい。 →×:多数の企業が完全競争する業界では、価格メカニズムが正常に働き、企業と消費者双方の観点から合理的な価格が形成される。しかし、完全競争する業界では、低価格競争になり企業の収益性が悪くなることがある。 |
(イ) | 中小企業が大多数の業界では、大手企業が支配的地位を比較的容易に築く可能性が高いが、零細市場ゆえに収益性は低くなる。 →×:中小企業が大多数の業界であっても収益性は低いとは限らない。また、中小企業が大多数の業界が零細市場とも限らない。 |
(ウ) | 取引ネットワークの中心に位置する企業は、情報処理コストがかさんで収益性が低下する。 →×:取引ネットワークの中心に位置する企業には、膨大な情報が集まるので情報処理コストがかかるが、それらの情報を統合、加工、分析したりすることで収益性を上げることは可能である。 |
(工) | ライバル間の競争は、ライバル企業の数が多くなるほど、また逆に少なくなるほど激しくなる。 →×:ライバル間の競争は、ライバル企業の数が少なくなれば、一般的に業界内で競争を回避した協調関係が生まれる為、穏やかになる。 |
(オ) | 立地、店舗ディスプレー、価格で優位な地位を得るには、ブランドの形成が有効である。 →○:ブランドの形成ができれば、立地、店舗ディスプレー、価格で優位な地位を得ることができる。 |
設問7
解答:設問1:エ 設問2:ウ
(ア) | 価値連鎖上で収益性の最も高い部分には、独占的な地位の強い企業が常に存在する。 →×:収益性の高い部分には多数の企業が参入しているはずである。また収益率の高い部分であるため新規参入も多く争いは激しい。よって「独占的な地位の強い企業が常に存在する。」とはいいきれない。 |
(イ) | 価値連鎖で創造された価値は、業界の協定によって分配される。 →×:価値連鎖で創造された価値は、連鎖内での役割に応じて分配される。すなわち、業界の協定によって分配されるわけではない。 |
(ウ) | 収益性の高い価値連鎖部分に自社製品を位置づけることは、売上を伸ばすためには最も重要である。 →×:収益性の高い価値連鎖部分に自社製品を位置づけることは利益を伸ばす為には重要である。しかし、設問のように売上げを伸ばすためならば収益性の高い・低いは関係ない。 |
(工) | 収益性の高い価値連鎖部分は、新規参入を呼び込みやすい。 →○:収益率が高い部分には、利潤獲得を目的とした新規参入を呼び込みやすい。 |
(ア) | 寡占化が進行するとともに、需要は減少することが多い。 →×:「寡占化が進行すること」と「需要は減少する」に相関関係は無い。 |
(イ) | 代替品の価格低下は、業界の需要を伸ばし収益性を高めることが多い。 →×:代替品の価格低下は、代替品の需要を伸ばし、収益性を高める。その結果、業界の需要は減り、収益性も低くなる。 |
(ウ) | 低価格の補完品の供給は、業界の需要を伸ばすことが多い。 →○:低価格の補完品や大人気の補完品の出現により業界の需要が伸びる事は多々ある。 |
(工) | ライバル企業との低価格競争は、生産資源獲得の必要最小支払額を上昇させることが多い。 →×:ライバル企業との低価格競争は、生産資源獲得の必要最小支払額(調達コスト)を上昇させることはない。必要最小支払額(調達コスト)を上昇させる要因は、その資源に対する需要と供給のバランスだからである。 |
設問8
解答:設問1:イ 設問2:エ 設問3:イ 設問4:ウ
(ア) | 希少で不可欠な資源を独占する取引相手には、拮抗力がなければ従わざるをえない。 →○:「希少で不可欠な資源を独占する取引相手」すなわち「売り手の交渉力」が強い場合には拮抗力がなければ従わざるをえない。 |
(イ) | 市場は相手をだましてでも有利に振る舞おうとする利己的な取引相手ばかりである。 →×:ネットワークの取引の方が匿名性が高い為、相手をだましてでも有利に振舞う可能性が高い。 |
(ウ) | 少数の取引相手が有利な取引情報を占有しがちである。 →○:市場での取引では、未取引の相手よりも長年の実績がある方に有利な情報を提供する傾向がある。 |
(工) | 取引情報には不確実性がつきまとう。 →○:市場での取引には不確実性がつきまとう。 |
(設問2)
プラットフォーム・ビジネスとは、だれもが明確な条件で提供を受けられる商品やサービスの供給を通じて、第三者間の取引を活性化させたり、新しいビジネスを起こす基盤を提供する役割を私的ビジネスとしておこなっている存在のことを指す。
(設問3)
コアコンピタンスに関する問題である。
コアコンピタンス(中核能力)とは、多数の事業の競争上の基礎となるスキルや技術のことである。ホンダのエンジン技術、シャープの液晶技術、ソニーの小型化といった他社がまねできない、その企業ならではの力のことである。
(ア) | 具体的な製品やサービスに結びつき、販売力を高める能力であること。 →○:正しい |
(イ) | ビジネスの全プロセスをカバーするフルセットな能力であること。 →×:コアコンピタンス(中核能力)とは、他社の真似できない独自のスキルや技術であり、全プロセスをカバーするフルセットな能力ではない。 |
(ウ) | 広く顧客から認知される価値を生み出す学習能力をもつこと。 →○:正しい |
(工) | ライバルよりも優れた競争能力であること。 →○:正しい |
(設問4)
アウトソーシングに関する問題である。
(ア) | アウトソーシングは、自社能力を特定分野に限定することによって、企業の競争力を弱める。 →×:アウトソーシングは、業務の一部をアウトソースすることで、自社の資産を特定分野に集中することで競争力を高める効果がある。 |
(イ) | 時間の経過と共にネットワークが硬直化して、メンバーの発言力が弱くなる。 →×:時間の経過と共にネットワークが硬直化して、メンバーの発言力は強くなる。 |
(ウ) | 重要な経営資源やコア・コンピタンスの支配力を失いやすくなる。 →○:ネットワークのメンバーに、ノウハウなどが流出した場合、経営資源やコア・コンピタンスの支配力を知らず知らずのうちに喪失する危険性がある。 |
(工) | ネットワークはメンバー企業に対して長期的には外部不経済をもたらす。 →×:ネットワークを形成しても外部不経済(ある経済活動が、市場を通さずに他の経済主体に対して悪影響を及ぼすこと)はもたらさない。 |
設問9
解答:ア
(ア) | ある分野で非価格的な競争優位を狙うときニッチ戦略になる。 →○:ニッチ戦略では特定市場における利潤を求める。ニッチ戦略の目的の1つに非価格競争がある。 |
(イ) | オンリーワン戦略はニッチ戦略を言い換えたものであり、停滞する地場企業で採用されるのが定石である。 →×:オンリーワン戦略とは全方位での展開を捨て、他社とは違う視点で他社が手掛けていないことに取り組み、得意分野に経営資源を集中して、独自特徴技術をもとに特長商品を創出することである。すなわち特定市場を狙うニッチ戦略とは異なる。またニッチ戦略は、停滞する地場産業で採用されるのが定石ではない。 |
(ウ) | 系列は、大手企業がカバーできないニッチを囲い込んだ結果である。 →×:系列とは、大企業を中心とした資本や取引等の関係による企業群のことである。 ニッチ戦略とは関係がない。 |
(工) | ニッチ戦略は隙間市場を狙うので、収益性が悪くなる。 →×:ニッチ市場を確立できた企業は、収益を上げやすく、収益率は概して高い。 |
設問10
解答:ア
スピードの経済(速度の経済)とは、情報獲得のスピード、商品開発のスピード、商品回転のスピードを上げることによって、顧客価値や投資効率を上げる有効性のことである。
(ア) | 新たなブランド・イメージを形成するのに有効である。 →○:画期的な商品を他社よりも早く市場に投入すれば新たなブランドイメージを形成するのに有利である。 |
(イ) | 既存市場から大規模市場への市場標的の切り替えが容易になる。 →×:スピードの経済は市場の規模の拡大を狙って行うものではない。すなわち市場標的の切り替えが容易になるわけではない。 |
(ウ) | 生産効率の改善と製品在庫の増大というトレードオフが発生する。 ×:商品回転のスピードを上げることで売れ残りロスや機会損失を削減できる。すなわち製品在庫も減少させることができる。 |
(工) | 製品寿命を短縮化するので、中小企業には向かない戦略である。 →×:製品寿命を短縮化することはない。また中小企業の柔軟性を生かすことができるので、中小企業には向いた戦略である。 |