平成18年度年度1次試験解答:経営法務
設問11
解答:イ
(ア) | 共同研究開発契約において、共同研究開発の成果物を各自自由に活用できることが自己の権利を保護することにつながるので、B大学が第三者に対し共同研究開発の成果物を譲渡、ライセンスする際にA社の同意を不要と定めた方がよい。 →×:共同研究開発における青果物は、本来は共有のものである。しかし特許権は出願した者に与えられるため、発明を特許権化して権利者になるためには出願人になる必要がある。したがって出願に際しては共同出願するように取り決めをするべきである。 |
(イ) | 共同研究開発契約において、契約の有効期間と研究開発期間は必ずしも一致しないため、契約の対象となる研究開発行為を明確にし、一定の成果を一定期間内にあげるためには、研究開発期間(始期と終期)を契約の有効期間と区別して定めた方がよい。 →○:研究開発には、多くの時間と資金が必要となる。その為、リスク管理上からも、このような対応をすることが望ましい。 |
(ウ) | 共同研究開発における発明に開しては、A社とB大学がともに発明者となり、いずれかが特許の出願手続を行い登録されれば両者が特許権の共有者となるので、共同出願に開する定めはしなくてもよい。 →×:特許出願は「いずれかが」ではなく、A社とB大学の双方で出願することにより両社が特許権の共有者(共同発明)となることができる。 |
(エ) | 共同研究開発の成果を論文発表することは、製品の良い宣伝となり販売促進につながるから、共同研究開発の成果を特許出願する日が6ケ月よりも先になりそうでも、できるだけ早くB大学に論文発表を行ってもらう定めをした方がよい。 →×:共同研究開発の成果を論文発表した場合には、6ケ月を経過すると特許を受けられなくなる。 |
設問12
解答:ア
(ア) | A社がC社に対し精密機器XについてB国内における独占的な販売権限を与えることを内容とする販売代理店契約を締結する場合でも、この販売代理店契約に関して生じた紛争の裁判管轄をB国内の裁判所と定める必要はない。 →○:各国法による制限がない限り、当事者間の合意によって裁判地を定めることが可能である。よって必ずしも裁判管轄をB国内の裁判所と定める必要はなく、A社の属する日本国内の裁判所と定めることも可能である。 |
(イ) | A社が精密機器Xを民間利用目的で製作した場合、外国為替及び外国貿易法における輸出規制は世界及び日本の安全保障のための規定であるので、外国為替及び外国貿易法の輸出規制の対象とされる製品あるいは技術に該当するか確認する必要はない。 →×:たとえ民間利用目的で製作したものでも、軍事目的に転用することが可能であることから輸出規制により輸出できないことがありえる。よって輸出規制の対象となるか関連法規の事前確認が必要となる。 |
(ウ) | C社に対する製品引渡しの地点を日本国内の横浜港と合意した場合、A社C社間の取引はFOB横浜の条件によることが決まるので、C社との間で別途通関手続の負担に関する取り決めをする必要はない。 →×:FOBによる契約では、売主(輸出者)は、貨物を積み地の港で本船に積み込むまでの費用及びリスクを負担し、それ以降の費用(運賃、海上保険料、輸入関税、通関手数料等)及びリスクは買主(輸入者)が負担する。 通関手続きは輸出入業者が各国の税関に行うものであり、日本またはB国どちらの通関費用か明らかではない。よって、その負担については別途取り決めをする必要がある。 |
(エ) | 日本からB国に精密機器Xを輸出する場合、米国内の企業と直接取引をするわけではないので、精密機器Xが米国による米国製品の再輸出規制における対象製品に該当するか確認する必要はない。 →×:米国製品の再輸出規制(EAR)とは、米国の安全保障の見地から軍事目的に転用可能な米国製品、技術の輸出・再輸出を規制するものである。EARの対象品目は、軍事目的に転用可能な米国製品で、一般的に使用されている電子部品、コンピュータ、センサー・レーザー、暗号ソフト・技術などを含む。製品価値の25%(テロ支援該当国に関しては10%)を越えている場合、当該製品はEARの対象となる。当該製品は、製品価値の30%を超えているので、再輸出規制における対象製品に該当するか確認する必要がある。 |
設問13
解答:エ
(ア) | 「裁判管轄(Jurisdiction)」を定めた条項において、本契約に関して生じた紛争を解決するために特定の裁判所が「裁判管轄」を有することのみを規定する場合は、本契約に関する紛争が生じたときには、この特定の裁判所に訴訟を提起する以外の解決方法がないこととなる。 →×:国際裁判管轄に関する国家間の取り決めはなく、当事者間の契約書中に裁判管轄の合意があったとしても、その合意に必ず拘束されるとは限らない。また契約書とは別に仲裁による合意も可能である。 |
(イ) | 「準拠法(Governing Law)」を定めた条項において、「準拠法」を日本法と指定する場合は、本契約に関して生じた紛争を解決するための裁判所を日本国内の裁判所としなければ、この条項は無効となる。 →×:準拠法と裁判管轄とは、別の基準で決定される。すなわち、「準拠法」を日本法としても、裁判管轄を相手国または第三国とすることは可能である。 |
(ウ) | 「仲裁(Arbitration)」を定めた条項において、民間の機関によって仲裁人の選定か行われると定めた場合は、日本において「仲裁」は裁判所により指名された仲裁人により行われなければならないので、この条項は無効となる。 →×:仲裁では当事者が自由に仲裁人を選出できるため、その紛争の内容に適した専門家を仲裁人として選任することができる。すなわち、「仲裁」は裁判所により指名された仲裁人により行われなければならないとの規定はない。 |
(エ) | 「不可抗力(Force Majeure)」を定めた条項において、免責される「不可抗力」の具体的事由に天災地変のほか戦争、内乱、ストライキや労働争議という事由も定めた場合は、債務者が戦争、内乱、ストライキや労働争議を理由に債務を履行できないとしても履行義務を免れることとなる。 →○:正しい。不可抗力条項とは、不可抗力が原因となって契約上の債務が履行できない場合には、契約当事者は責任を負わない旨規定した条項である。 |
設問14
解答:イ
ベンチャーキャピタルとは、成長志向性の強いベンチャー企業に対して資金提供を行う投資会社(投資集団)のことである。
(ア) | 全部の種類の株式に譲渡制限が付されているベンチャー企業において、ベンチャーキャピタルから第三者割当増資による資金調達を実施する場合、取締役会で募集株式の数の上限、払込金額の下限を決定しておけば、募集事項の決定を代表取締役に委任することができる。 →×:株式譲渡制限会社(全部の種類の株式に譲渡制限が付されている場合)は、ベンチャーキャピタルから第三者割当増資による資金調達を実施する場合、募集事項の内容について株主総会の特別決議が必要である。 |
(イ) | ベンチャー企業が、第三者割当増資による株式の発行日以前6ケ月以内に同一種類の株式を発行している場合で、勧誘の相手方の人数を通算して50名以上となり、かつ、発行価額の総額を通算して1億円以上となるときは有価証券届出書が必要となる。 →○:正しい。6ヶ月間の通算により勧誘の相手方人数が50名以上かつ発行価額の総額が1億円以上となる場合には有価証券届出書の提出義務を負う。 |
(ウ) | ベンチャーキャピタルが運営する投資事業有限責任組合は、その金額規模や出貧者の人数に関係なく有価証券届出書を提出しているため、ベンチャー企業が投資事業有限責任組合から出資を受ける際に、ベンチャー企業は投資事業有限責任組合の内容について縦覧することができる。 →×:出資を公募する場合には、有価証券届出書を提出するとともに、有価証券報告書によって財務内容などの重要情報を継続的に開示する義務がある。しかし、公募にあたらない場合は有価証券届出書の提出義務は無い。 |
(エ) | ベンチャーキャピタルから第三者割当増資により資金調達する場合、発行価格は相続税財産評価基本通達に定める方式で算出した価格にすベきであり、それ以外の価格による場合には株主総会の特別決議が必ず必要となる。 →×:相続税財産評価基本通達に定める方式は、株式価格評価法の1つにすぎない。にも関わらず、相続税財産評価基本通達に定める方式以外は特別決議が必ず必要となるというのは、誤りである。 |
設問15
解答:設問1:エ 設問2:イ 設問3:ウ
(設問1)
社長の求めているのは次の2点である。
- 従業員へのインセンティブの付与
- 現在または将来の安定株主になってもらう
(ア) | 業績連動賞与 →×:会社の業績(経常利益や営業利益)や部門、個人の業績を賞与(ボーナス)に反映させる制度のことである。1の要望には応えているが2の要望には応えていない。 |
(イ) | 自社の株式を譲渡制限株式とする →×:株式を自由に譲渡できないので、従業員へのインセンティブの付与になりえない。また、株式公開を検討している設問の設定と矛盾している。 |
(ウ) | 執行役員制度の導入 →×:執行役員とは特定の事業部門などの長として実際の業務執行に対する責任と権限を持つ幹部社員のことである。1の要望には応えているが2の要望には応えていない。 |
(エ) | ストックオプションの付与 →○:ストックオプションとは、会社(企業)の役員や従業員が、一定期間内に、あらかじめ決められた価格で、所属する会社から自社株式を購入できる権利をいう。 権利を付与された取締役や従業員の株価に対する意識は高まり、業績向上へのインセンティブとなる。 また、あらかじめ友好的な株主・従業員・取引先等にストックオプションを与えておけば、安定株主比率を高く保つことができる。 |
(設問2)
ライツプランとは、敵対的買収防衛策のひとつで、敵対的買収者が一定の議決権割合を取得した時点で時価以下で新株を購入できる新株予約権を、既存株主に対して予め発行しておく方法。ポイズンピル(毒薬)と呼ばれることも多い。
(ア) | ライツプランとは、一般的には、会社が平時に新株予約権を株主等に付与し、敵対的買収者が一定の株式を買い占めた際に、買収者以外の株主に大量の株式を発行して買敗者の持株比率を劇的に低下させる仕組みである。 →○:敵対的買収をかけられた場合に、時価以下で新株を発行することで買収者の持ち株比率及び株式価値を低下させることが可能である。 |
(イ) | ライツプランの導入により、特定の種類株式を敵対的買収に反対する者に対して発行しておき、取締役の選任等の特定の議案を、当該種類株主総会の決議が必要なものと取り決めることにより、敵対的買収に備えることができる。 →×:ライツプランとは関係ない。また役員選任権付種類株式の発行は株式譲渡制限会社においてのみ可能である。 |
(ウ) | ライツプランを導入した場合、経営者と敵対的買収者の交渉において、経営者、敵対的買収者の双方が、その経営戦略を株主に対して積極的に説明して支持を取付ける努力を行う効果がある。 →○:正しい。交渉過程で、経営者、買収者双方が株主に対して積極的に説明して支持を取付ける努力を行う効果がある。 |
(エ) | ライツプランを導入している企業を買収する場合、敵対的買収者はライツプランが発動される前に、経営者にライツプランを消却してもらうように交渉を行うこととなるため、買収者と経営者が交渉する時間と機会を確保できる効果がある。 →○:ライツプランを導入することによって、その牽制効果によって買収者は直ちに株式の買占めができない。そこで、敵対的買収者はライツプランが発動される前に、経営者にライツプランを消却してもらうように交渉を行うこととなるため、買収者と経営者が交渉する時間と機会を確保できる効果がある。 |
(設問3)
経済産業省・法務省による買収防衛策の3原則とは次のものである。
- (1)企業価値・株主共同の利益の確保・向上の原則
- 買収防衛策の導入、発動及び廃止は、企業価値、ひいては株主共同の利益を確保し、または向上させる目的で行うべきである。
- (2)事前開示・株主意思の原則
- ・買収防衛策の導入に際して、その目的、具体的な内容、効果(議決権の制限・変更、財産的権利への影響等を含む利益及び不利益)などを具体的に開示すべきである。また、株主の合理的な意思に依拠すべきである。
・ 株主総会は最高意思決定機関として、株主共同の利益の保護のために、定款変更その他の方法により買収防衛策を導入することができる。取締役会の決議によ り買収防衛策が導入された場合であっても、株主の総体的意思によってこれを廃止できる手段を設けている場合には、株主意思の原則に反するものではない。 - (3)必要性・相当性の原則
- 買収防衛策は、買収を防止するために、必要かつ相当なものとすべき。株主平等の原則、財産権の保護、経営者の保身のための乱用防止等に配慮し、必要かつ相当な方法によるべきである。
(ア)企業価値・株主共同の利益の確保・向上の原則
→○:(1)に該当する
(イ)事前開示・株主意思の原則
→○:(2)に該当する
(ウ)真実性・継続企業の原則
→×:該当するものがない
(エ)必要性・相当性確保の原則
→○:(3)に該当する
設問16
解答:ウ
(ア) | 株式会社は、原則として、譲渡等承認請求の日から3ケ月以内に承認するか否 かの決定を通知しなかった場合、当該譲渡等を承認したものとみなされる。 →×:譲渡承認請求から2週間以内に承認するか否かの決定を通知する必要がある。通知しなかった場合は、当該譲渡等を承認したものとみなされる。 |
(イ) | 譲渡制限株式を発行した株式会社に対し、譲渡制限株式を譲渡しようとする株主は譲渡承認の請求をすることができるが、譲渡制限株式を取得した者からの請求はできない。 →×:譲渡制限会社を譲渡しようとする株主だけでなく、譲渡制限株式を取得した者も請求することは可能である。 |
(ウ) | 定款で定めることにより、譲渡制限株式の譲渡に関する承認機関を代表取締役とすることができる。 →○:正しい。承認の機関は株主総会(取締役会設置会社においては取締役会)とされているが、定款に別段の定めをすることで、代表取締役を承認機関にすることができる。 |
(エ) | 定款において、譲渡による株式の取得について、当該株式会社の承認を要する旨を定めた場合には、相続・合併による取得についても、当該株式会社の承認が必要である。 →×:相続・合併は包括承継であり、譲渡による取得ではないので、株式会社の承認は不要である。 |
設問17
解答:イ
(ア) | 代表取締役A氏は、当該貸付取引から生じた会社の損害について、故意または過失が存在しないことを証明することにより、損害賠償の責任を免れることができる。 →×:代表取締役A氏は、X社から貸付を受けている。この行為は、 直接取引(取締役が自ら会社を代表して自分と契約を結ぶこと)にあたる。この場合、故意・過失がなかった場合でも損害賠償の責任を免れることはできない。(無過失責任)。 |
(イ) | 当該貸付取引から生じた会社の損害に対する代表取締役A氏の賠償責任は、総株主の同意をもって免除することができる。 →○:本件の直接取引は任務懈怠責任に含まれる。任務懈怠責任は、総株主(議決権を有しない株主を含む)の同意があれば賠償責任を免除できる。 |
(ウ) | 取締役B氏は、その職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない場合、定款の定めがなくても、当然に損害賠償の責任が免除される。 →×:取締役B氏は、その職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない場合、損害賠償を負う額につき、株主総会の特別決議、または定款の定めに基づき取締役会決議により一部免除される。すなわち当然に損害賠償責任が免除されるわけではない。 |
(エ) | 取締役B氏は、取締役会の承認決議に賛成したに過ぎないため、当該貸付取引から生じた会社の損害について、損害賠償の責任を負うことはない。 →×:取締役会の承認決議に賛成した取締役には、任務懈怠があったものとされる。すなわち会社に対して損害賠償の責任を負うことがある。 |