平成13年度1次試験問題:企業経営理論
設問1
企業は規模を拡大するにつれて、管理が複雑化し、環境との関係は不確実性を帯びたものになってゆく。技術革新のスピードや経済のグローバル化は、この傾向に拍車をかけるものである。ワンマン・コントロールから組織的なコントロールに移行した 企業にとって、計画に基づく経営は不可欠であることは言うまでもない。多くの企業が取り組んでいる経営計画はどのような効果を経営にもたらしてくれるのであろうか。 適切なものの組み合わせを、下記の解答群から選べ。
(a )経営計画によって、経営資源の合理的な配分と活用が全社的に確保される。
(b )経営計画によって将来の危機の発生時期や中身を確定できるので、危険を回避して安定した経営が保証される。
(c )経営計画によって会社の目標や方針を明示できるので、部門間のベクトル合わせや全社的な総合力の発揮が可能になる。
(d )経営計画によって目標達成への道筋が明確になるので、今まで通りの経営を維持 しながらその道筋をたどれば、目標に到達できる。
【解答群】
(ア)a とb
(イ)a とc
(ウ)b とc
(エ)b とd
設問2
経営計画の策定は、企業の抱く長期の目標を設定することからスタートするが、そのためには、企業のビジョンが明確に提示されていなければならない。企業にとってのビジョンは企業の将来のデザインであり、これが明示的でなければ目標も計画も場当たり的なものになりがちである。
次の文章は、ビジョンが計画をうまく導くために備えておくべき条件について述べたものである。適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
(a)高邁な言葉で表した使命と社会的責任を必ず盛り込むようにする。
(b)将来の会社の姿がイメージできる分かりやすい表現にする。
(c)現在の事業活動と結びついた表現をとりながらも、新しい事業を展望できる表現
を心がける。
(d)企業のビジョンは社是や社訓と同一の表現をとらなければならない。
【解答群】
(ア)a とb
(イ)a とc
(ウ)b とc
(エ)b とd
設問3
現代の会社に求められる、経営計画に盛り込むべき目標として適切な説明はどれか。
【解答群】
(ア)会社の目的は利益の獲得にあるので、利益目標を明確に示すだけでよい。
(イ)会社は株主のものであるから、高い配当性向を第一義的に明示すべきである。
(ウ)事業活動を推進するための経営計画で会社の社会的責任をうたうのは好ましくな い。
(エ)多様な利害関係者との調和を図るために、その利害を調整のうえ、会社は多元的 な目標を掲げるべきである。
設問4
次の文章を読んで、以下の設問に答えよ。
経営計画の策定では、まず企業のビジョンを具体化する目標を設定することが重要である。@目標の設定に際しては、業績の将来予測、企業を取り巻く環境の分析が重要になる。特に環境のあり方は目標の実現可能性を左右するので、環境の分析は計画策定時のみならずその実行に際しても怠ることなく常に多面的に分析されなければならない。
しかし、企業を取り巻く環境は多元的かつ複雑である。そこで一般に影響の程度に注意してどの企業にも共通するマクロな一般環境と、自社の事業活動に第一義的な影響を与えるミクロな製品市場環境を区別して分析することが行われている。
A一般環境では内外の経済、社会・文化、政治や法律、技術などが幅広く分析される。環境のトレンドについては、しばしば時代を象徴するキーワードが用いられてお
り、その意味するところに注意しておくことは大事である。
他方のB製品市場環境は、自社の事業と密接に結びついており、企業の活動領域全般にわたってそれぞれの部署でも日常的に分析、検討がなされている。市場の動向、
取引関係の変化、技術動向、さらには業界を取り巻く法的規制や政策の動向などが取り上げられる。
いずれの環境の分析でも重要なことは、自社の事業の機会と脅威をみきわめて、事
業を成功に導く環境要因を識別することである。そのために企業はさまざまな環境分析手法を発展させている。
(設問1)
次の文章は、下線部@のために企業が試みる分析方法について述べている。業績、
環境の分析方法として、適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
(a) 経営計画の業績目標には、各部門に提出を求めた次期計画に全社の目標数値を上積みしたものを用いる。
(b) これまでの業績の趨勢を高度な統計手法を用いて分析したトレンド予測に、不足する数値を上乗せしたものを目標として設定する。
(c) 目標と業績推移予測とのギャップを明確にして、それをどのように埋めるかを、各部門の業績拡大余地や新たな事業機会などに注意して探求する。
(d) 本社で描く経営目標と部門からの積み上げた実行計画とを擦りあわせながら、
実現可能な目標に練り上げてゆく。
〔解答群〕
(ア)a とb
(イ)a とd
(ウ)b とc
(エ)c とd
(設問2)
次の文章は地方の縫製メーカーが昨今のマクロな環境の変動を分析して、経営計画にそれを反映させる場合を想定したものである。
下線部Aを参照しながら、環境分析の態度として適切なものを選べ。
〔解答群〕
(ア)繊維産業なのでIT(情報技術)やグローバル化の動向について調べるつもりはない。
(イ)アジアから低価格な繊維製品の輸入が急増しているので、国の貿易政策や為替動向に注意するとともに、業界と共同歩調をとって状況の推移から眼を離さないようにする。
(ウ)アウトレットモールが評判だが、著名なブランド製品を生産していない自社に影響はないので注目する必要はない。
(エ)地元の財界活動や政治活動に熱心に関わって、地元の名士として知られるようになるように心がけている。
(設問3)
次の文章は、上記の縫製メーカーが事業の成功要因を明らかにするために製品市場環境の分析に取り組んでいる様子である。下線部Bを参考にして、適切な分析を行っているものの組み合わせを以下の解答群から選べ。
(a)CAD/CAM 導入や自動化などがもたらす効果について機器メーカーと研究を惜しまない。
(b)発注元の大手メーカーとの関係が生産規模を決めるので、百貨店、量販店や専門店などの小売動向には注目する必要はない。
(c)生地メーカーや服飾デザイナーとの交流を密にして、新製品の動きをいち早くつかむように努力する。
(d)企業情報が社外に漏れることを防ぐために、業界団体の活動や同業他社との交際を禁じている。
〔解答群〕
(ア)a とb
(イ)a とc
(ウ)a とd
(エ)b とd
設問5
事業領域(ドメイン)を設定する意義について、適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
(a)ドメインを設定することによって、戦略的に重要な事業に経営資源を集中するこ
とができる。
(b)ドメインは経営の目標と同じものであり、経営計画の数値目標として役立つ。
(c)企業のビジョンとドメインが整合していると、事業活動の柔軟性が失われやすく
なるので注意が必要である。
(d)他社のドメインと比較分析することで、自社の競争環境上の差異がどこにあるかを比較することができる。
【解答群】
(ア)a とb
(イ)a とd
(ウ)b とc
(エ)b とd
設問6
企業は多様な業務活動を階層と職能に基づいて分化させるが、それにあわせて経営戦略もサブ・システムに細分化されて展開されることになる。その場合、職能の専門性に注意した戦略は機能(職能)戦略と呼ばれる。
次の企業の戦略行動の説明のうち、機能戦略に該当するものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
(a)ビジョンに沿ってヒト、モノ、カネなどの経営資源を戦略的に配分する。
(b)技術開発戦略の進展をにらんで、生産部門と営業部門は新製品の市場投入戦略を練る。
(c)自社の強みに基づいて事業を編成し、戦略遂行の論理一貫性を強める。
(d)組織改革に基づいて、人員の配置および人事処遇の新しい人事戦略を検討する。
【解答群】
(ア)a とb
(イ)a とd
(ウ)b とc
(エ)b とd
解答を確認する
設問7
ある製品の累積生産量が2倍になれば、その製品の総コストが10〜30%下がることが知られており、通常、このようなコスト・カーブは経験曲線とか学習曲線と呼ばれている。
このような現象が起きるのはどのような理由からか。適切な理由の組み合わせを下記の解答群から選べ。
(a)1回当たりの生産規模が大きくなるから。
(b)労働者が仕事に習熟し、作業の能率が向上してくるから。
(c)作業方法の改善や生産設備の効率的な運用が発生するから。
(d)新規の設備投資によって新鋭機械の生産能率が著しく向上するから。
【解答群】
(ア)a とb
(イ)a とd
(ウ)b とc
(エ)b とd
設問8
PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)は、ボストン・コンサルティング・グループが1970年代初めに開発した事業管理の手法である。図に示すように、
縦軸に市場の魅力(市場成長率10〜20%で区切る)をとり、横軸に自社とシェア第1位の会社とを比べた相対的マーケット・シェア(自社が他社と並んで1位の場合1.0)をとって、クロスさせて得た4つのセルに、花形、金のなる木、問題児、負け犬といった名前を付している。PPM は各セルの使命を明確に定め、また類似のミッ
ションをもつ事業部は戦略的ビジネス・ユニットとして整理して、資源配分効率や戦略的機動力を高めることを狙っている。
(設問1)
PPM の説明として適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
(a)花形は伸び盛りの分野なので育成をはかるが、利益率を悪化させるので追加投資は控える。
(b)金のなる木から得た内部キャッシュフローを有望部門に重点投入する。
(c)問題児は早目に投資を打ち切り、撤退を検討する。
(d)負け犬は売却を含めて撤退を検討する。
【解答郡】
(ア)a とb
(イ)a とc
(ウ)a とd
(エ)b とd
(設問2)
PPM を支えるマーケット・シェア仮説として主張されているのはどれか。適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
(a)高いマーケット・シェアは、マーケティング努力と資金投入によってしか得られない。
(b)マーケット・シェアを追求することと、利益率を高めることは全く異なる対応を必要とする。
(c)一般にシェア第1位の商品は高収益で市場競争力が強いので、勝ち残るためには、何といっても高いシェアが必要である。
(d)市場が成熟したあとでシェアを動かすには、これまで以上に多額の費用が必要になる。
【解答郡】
(ア)a とb とc
(イ)a とb とd
(ウ)a とc とd
(エ)b とc とd
(設問3)
PPM はインパクトが強かったが、その後疑問が指摘されるようになった。その理由にはどのようなものが考えられるか。適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
(a)各セルの使命が教条的すぎて、花形以外の事業部門ではモチベーションが湧きにくいという欠点をもっていた。
(b)事業部門の業績は収益性のみで評価され、各事業部門が独自に取り組んでいる新規の戦略やイノベーションは無視された。
(c)PPM 担当の戦略スタッフの権限が強くなり、現場担当者に直接指示を出すことが多くなって、事業部門の指揮系統が混乱するようになった。
(d)事業部門での生産性改善の努力や効率的な資源管理などよりも、本社スタッフ部門での資金管理に重点がおかれていて、PPM は財務戦略的な色彩が強くなった。
【解答郡】
(ア)a とb
(イ)a とc
(ウ)a とd
(エ)b とd
設問9
競争戦略にはいくつかの選択肢がある。なかでも多くみられるのが、他社よりも低い価格で市場での競争優位を確立しようとするコスト・リーダーシップ戦略である。
コスト・リーダーシップ戦略に必要な条件について、適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
(a)低価格で販売できる大衆商品に限定した商品構成
(b)市場占有率を高めるための低コストの流通システム
(c)経験曲線効果を活かした生産体制
(d)生産性の高い設備に更新できる安定した資金力
【解答郡】
(ア)a とb とc
(イ)a とb とd
(ウ)a とc とd
(エ)b とc とd
設問10
差別化戦略はコスト・リーダーシップ戦略とは対照的な戦略であり、特有な戦略要因に支えられている。それはどのような要因か。適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
(a)旺盛な製品開発力
(b)明確なビジョンの提示
(c)強力なマーケティング力によるブランド・ロイヤルティの確立
(d)少品種に絞り込んだ大量生産体制
【解答郡】
(ア)a とb
(イ)a とc
(ウ)a とd
(エ)b とd