平成17年度1次試験解答:経済学・経済政策
設問1
解答:ア
(ア) | ケインズ型の貯蓄関数では、限界貯蓄性向は1より小さく、所得の増加に応じて平均貯蓄性向が低下する。 →×:平均貯蓄性向とは、所得のうち、貯蓄に回す割合のことである。所得の増加に応じて、平均貯蓄性向は増加する。 |
(イ) | 恒常所得仮説によれば、1回かぎりの特別減税によって可処分所得が一時的に増加したとしでも、消費の水準は影響を受けないとされる。 →○:恒常所得仮説とは、消費が現在の所得ではなく、将来にわたり恒常的に得られると期待される所得の関数であるとする説である。将来の税負担や社会保障負担の動向が不明確な場合、リスク要因の大きさから期待される可処分所得は少なくなり、消費が減少する。逆に政策より明確になれば、リスク要因が払拭され期待される可処分所得は上昇し、消費も増加(貯蓄は減少)する。1回限りの特別減税によって消費者は将来の増税を予測し、可処分所得を貯蓄に回す。その結果、消費は増加しない。 |
(ウ) | 個人レベルの倹約は美徳とされるが、「倹約のパラドックス」が発生する場合、人々の倹約意欲の高まりとともに、GDPが減少する。 →○:倹約のパラドックスとは、人びとが節約すれば、「消費」が減少し、「国民所得」が減少する現象のことである。 |
(エ) | 社会保障が不十分な場合、将来の年金への不安などによって、個人の貯蓄意欲は増大するという仮説がある。 →○:社会保障が不十分な場合、将来の年金への不安などによって、若年期から貯蓄を行うこととなる為、個人の貯蓄意欲は増大するという仮説がある。ライフサイクル仮説や恒常所得仮説が、それに該当する。 |
(オ) | ライフサイクル仮説では、一生にわたって得られる所得が増加するのにしたがって、消費が増大すると考える。 →○:ライフサイクル仮説とは、「人々は一生涯での消費額を一生涯で使えるお金と等しくなるように毎年の消費量を決める」という考え方である。 |
設問2
解答:設問1:イ(aとe) 設問2:オ
(設問1)
a | 線の傾きは限界消費性向に等しい。 →○:AD線の傾きは限界消費性向に等しい。 |
b | AD線の縦軸の切片は、(C0I0)に等しい。 →×:AD線の傾きはC0+I0に等しい。 |
c | 限界貯蓄性向が大きいほど、AD線の勾配はより激しくなる。 →×:限界貯蓄性向が大きいほど、AD線の縦軸切片は大きくなる。すなわちAD線は上方にシフトする。 |
d | 独立消費が増加すれば、AD線は下方にシフトする。 →×:独立投資が増加すれば、AD線は上方にシフトする。 |
e | 独立投資が増加すれば、AD線は上方にシフトする。 →○:正しい |
よって解答はイである。
(設問2)
有効需要の原理とは、国民所得の大きさを決めるのは需要側の要因であり、総需要を増やせば国民所得が増えるという考え方のことである。
(ア) | 有効需要の原理によれば、価格の下落を通じて超過供給が解消され、均衡GDPが実現する。 →×:価格の調整では、超過供給は解消されない。 |
(イ) | 有効需要の原理によれば、価格の上昇を通じて超過供給が解消され、均衡GDPが実現する。 →×:価格の調整では、超過供給は解消されない。 |
(ウ) | 有効需要の原理によれば、雇用量の増加を通じて超過供給が解消され、均衡GDPが実現する。 →×:雇用量の増加を通じて生産の増大を通じて超過供給が拡大し、均衡GDPは実現しない。 |
(エ) | 有効需要の原理によれば、生産の拡大を通じて超過供給が解消され、均衡GDPが実現する。 →×:生産の拡大を行えば超過供給がますます増大し、均衡GDPは実現しない。 |
(オ) | 有効需要の原理によれば、生産の縮小を通じて超過供給が解消され、均衡GDPが実現する。 →○:財市場に超過供給が生じている場合、生産の縮小を通じて超過供給が解消され、均衡GDPが実現する。 |
よって解答はオである。
設問3
解答:オ
IS=LM分析モデルでは、財市場(生産物市場)の均衡を表すのがIS曲線、貨幣市場の均衡を表すのがLM曲線である。右下がりのIS曲線の右側(左側)では財市場で超過供給(超過需要)がおこっており、右上がりのLM曲線の右側(左側)では貨幣市場で貨幣の超過需要(超過供給)がおこっている。
財市場 (IS曲線) |
貨幣市場 (LM曲線) |
|
T | 超過供給 | 超過供給 |
U | 超過需要 | 超過供給 |
V | 超過需要 | 超過需要 |
W | 超過供給 | 超過需要 |
(ア) | Iの領域では、生産物市場と貨幣市場はともに超過需要の状態にあり、Vの領域では、生産物市場と貨幣市場はともに超過供給の状態にある。 →×: Iの領域では、生産物市場と貨幣市場はともに超過供給の状態にあり、Vの領域では、生産物市場と貨幣市場はともに超過需要の状態にある。 |
(イ) | Tの領域では、生産物市場は超過供給、貨幣市場は超過需要の状態にあり、Wの領域では、生産物市場は超過需要、貨幣市場は超過供給の状態にある。 →×:Tの領域では、生産物市場と貨幣市場はともに超過供給の状態にあり、Wの領域では、生産物市場は超過供給、貨幣市場は超過需要の状態にある。 |
(ウ) | Uの領域では、生産物市場は超過供給、貨幣市場は超過需要の状態にあり、Vの領域では、生産物市場と貨幣市場はともに超過需要の状態にある。 →×: Uの領域では、生産物市場は超過需要、貨幣市場は超過供給の状態にあり、Vの領域では、生産物市場と貨幣市場はともに超過需要の状態にある。 |
(エ) | Uの領域では、生産物市場は超過供給、貨幣市場は超過需要の状態にあり、Wの領域では、生産物市場は超過需要、貨幣市場は超過供給の状態にある。 →×:Uの領域では、生産物市場は超過需要、貨幣市場は超過供給の状態にあり、Wの領域では、生産物市場は超過供給、貨幣市場は超過需要の状態にある。 |
(オ) | Vの領域では、生産物市場と貨幣市場はともに超過需要の状態にあり、Wの領域では、生産物市場は超過供給、貨幣市場は超過需要の状態にある。 →○:正しい |
よって解答はオである。
設問4
解答:設問1:イ(aとd) 設問2:ア(aとd)
(設問1)
クラウディングアウトとは、政府が国債を大量に発行して金融市場から資金を調達すると金利が上昇し、民間の資金需要を抑制してしまう現象のことである。
投資の利子弾力性とは、利子率が1%動いたときに、投資が何%動くかを示す係数のことであり、投資の利子弾力性が大きいと、利子率の変化に対して投資が大きく動くことを表す。
貨幣需要の利子弾力性とは、利子率が1%動いたときに、貨幣需要が何%動くかを示す係数のことであり、貨幣需要の利子弾力性が大きいと、利子率の変化に対して貨幣需要が大きく動くことを表します。
a | 投資の利子弾力性がゼロの場合 →○:投資の利子弾力性がゼロの場合、財政政策により利子率が上昇するが、投資が利子率に対して全く感応的でないため利子率は全く上昇しない。 |
d | 貨幣需要の利子弾力性が無限大の場合 →○:貨幣需要の利子弾力性が無限大の場合、財政政策を行ったことにより一時的に超過需要が生じたとしても、利子率が全く変化することなく解消されてしまうので利子率は全く上昇しない。 |
a | 貨幣需要の利子弾力性が大きいほど、貨幣供給の増加に伴う利子率の低下幅が小さくなる。
→○:貨幣需要の利子弾力性が大きい(少しの利子率低下(上昇)で貨幣需要が大幅に減少(増大)する)ほど、貨幣供給の増加に伴う利子率の低下幅が小さくなる。 |
b | 貨幣需要の利子弾力性がゼロになる「流動性のわな」のもとでは、貨幣供給が増加しても利子率は低下しない。 →×:「流動性のわな」とは、貨幣需要の利子弾力性が無限大になることである。ゼロになるわけではない。 |
c | 古典派のケースでは、貨幣需要の所得弾力性がゼロになり、貨幣供給が増加しても利子率は低下しない。 →×:古典派のケースでは、貨幣需要の利子弾力性がゼロになる。 |
d | 投資の利子弾力性が大きいほど、利子率の低下に伴う民間投資支出の増加幅が大きい。 →○:投資の利子弾力性が大きい(少しの利子率低下(上昇)で投資が大幅に増加(減少)する)ほど、利子率の低下に伴う民間投資支出の増加幅が大きい。 |
e | 投資の利子弾力性がゼロの場合、利子率の低下は、無限に民間投資支出を増加させる。 →×:投資の利子弾力性がゼロ(利子率の変化に対して投資が全く非感応的であること)の場合、利子率の低下によって民間投資支出は全く変化しない。 |
設問5
解答:設問1:イ(aとd) 設問2:(ウbとc)
a | 外国では、経常収支の改善を通じて、所得の増加が生じる。 →○:変動為替制度の下で、資本移動が自由な場合には、財政の拡大政策は自国の利子率を上昇させ、海外からの短期資本の流人を招く。同時に自国通貨の需要が高まるので自国通貨の増価(すなわち他国通貨の減価)がおこり、輸入(外国にとっては輸出)が促進される。すなわち外国は所得が増加する。反対に自国の所得増加は抑制される。 |
b | 自国が発動する財政政策は、近隣窮乏化政策になり、自国から外国への失業の輸出を引き起こす。 →×:自国が発動する財政政策によって外国は経常収支の改善がもたらされ所得を増加させる。よって近隣窮乏化政策にはならない。 |
c | 自国が発動する財政政策は、内外利子率を低下させる。 →×:自国の財政政策は内外利子率を高める。 |
d | 自国では、利子率の上昇に伴う民間投資支出の減少、経常収支の悪化が生じるが、所得は拡大する。 →○:正しい。自国では、利子率の上昇により投資が減少し、経常収支の悪化が生じるが、GDPは拡大する。 |
e | 変動為替レート制の内外経済の隔離効果が作用し、外国経済への波及は何ら生じない。 →×:自国の財政政策発動は外国経済に対して利子率の上昇や所得の増加といった波及を生じる。 |
a | 外国では、通貨価値の下落を通じて経常収支が改善し、所得が増加する。 →×:外国では、通貨価値の下落を通じて経常収支が悪化し、所得が減少する。 |
b | 自国が発動する財政政策は、近隣窮乏化政策になり、自国から外国への失業の輸出を引き起こす。 →○:自国が金融政策を発動を発動することによって外国の総需要の減少を招く。 |
c | 自国が発動する金融政策は、内外利子率を低下させる。 →○:自国が発動する金融政策は、自国の金利を低下させて国内の民間投資を促進させる。 |
d | 自国では、民間投資支出が減少する分だけ、所得の拡大幅が小さくなる。 →×:金利が低下するので民間投資支出は増加する。 |
e | 自国では、通貨価値が上昇し、経常収支は改善する。 →×:自国では、通貨価値が下落する。 |