平成21年度1次試験解答:企業経営理論
設問1
解答:設問1:ウ 設問2:ウ 設問3:エ 設問2:ア
(ア) | 医師と患者の間では医療情報に顕著な差があるため、効率的な医療サービスが歪められる可能性が高い。 ⇒○:情報の非対称性が存在する場合は市場の失敗が引き起こされる。なお、情報の非対称性とはとは、市場取引における買い手と売り手の当事者同士が保有する情報が不均衡であることを指す。通常買い手は、商品に対する品質等の情報について詳しくは分からないが、対する売り手は詳しく把握している状態を指す。 |
(イ) | 学校教育では学生が費用を負担し、教育の便益を受けるが、企業は教育の費用を負担することなく学生を採用することによって教育の便益を得ることができるので、放置すれば教育の提供が歪められる。 ⇒○:教育においては、教育費を負担した当人だけでなく、雇用主の企業にもその効果が取得される(正の外部性)。しかし企業はフリーライダー(活動に必要なコストを負担せず利益だけを受ける人)として費用を負担せず、市場の下では教育費の支出が過少となる。公共財は市場目かに有無で効率的な資源配分ができないため、市場の失敗が引き起こされる。 |
(ウ) | 企業から発生した公害の解決や費用の負担をNPOや公共団体が担えば、企業は生産活動に専念できるようになるので経済効果が高まり、住民の福利厚生も増大する。 ⇒×:企業から発生した公害は市場の失敗である。しかし、しかし公害の解決や費用の負担をNPOや公共団体が担って解決が図られているので不適切である。 |
(工) | サービスを受けてもその対価を負担しない受益者を排除することが難しい場合、企業はその事業に参入しにくい。 ⇒○:サービスを受けてもその対価を負担しない受益者(フリーライダー)を排除することが難しい場合、企業はその事業に参入しにくい。その結果、社会的に十分な量の供給が不可能になる。市場の失敗である。 |
(ア) | ISO(国際標準化機構)は組織の社会的責任をとりあげ、国際的な倫理規範化を目指している。 ⇒○:ISO(国際標準化機構)でも、CSRのISO規格化を検討し始めています。 |
(イ) | 欧州では1976年に経済協力開発機構(OECD)が「OECD多国籍企業ガイドライン」を発表し、さらに2000年の改訂ではCSRの範囲を雇用、人権、環境、情報開示、消費者利益などに広げ、指針を設けて自主的な取り組みを求めている。 ⇒○:正しい。 |
(ウ) | かつて経済団体連合会は会員企業の経常利益の1%相当額以上の支出や個人の寄付を財源にする1%(ワンパーセント)クラブを設立して社会貢献活動を行ってきたが、2002年に日本経済団体連合会に統合する際にその活動は使命を終えたとして停止された。 ⇒×:1%クラブとは、経済団体連合会が1990年に設立したもので、経常利益や可処分所得の1%相当額以上を自主的に社会貢献活動に支出しようと努める企業や個人が会員である。経済団体連合会と日本経済団体連合会が合併した後も存続し現在でも活動を行っている。 |
(工) | 近年、CSRへの取り組みは中小企業にも広がっており、株主、従業員、消費者などを越えて、地域社会をも責任の範囲とする考え方が見られ、他方ではコミュニティ・ビジネスが誕生してきている。 ⇒○:コミュニティビジネスとは、地域の課題を地域住民が主体的に、ビジネスの手法を用いて解決する取り組みのことである。 |
(オ) | フィランソロピーは博愛的な精神に基づく慈善活動行為であるが、米国では富豪によるものが盛んであるのに対して、わが国では企業による社会的貢献活動として実施される傾向がある。 ⇒○: フィランソロピーとは、慈善活動のことである。米国の富豪のように所得が多くないことや、慈善・寄付についての税制の優遇が米国のように認められていないので、わが国では企業による社会的貢献活動として実施される傾向がある。 |
(設問3)
a | 新製品は発売から半年をめどに製品の完成度を高めるようにしているので、その間のクレームには技術部門を含めて全社をあげて積極的に応じるが、その後は営業部門のみで対応するようにしている。 ⇒問題が発生する可能性が高い。新製品の発売から半年以降経過していても積極的に応じるべきである。 |
b | 独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の事故原因の調査報告や提言に注意しつつ、消費生活用製品安全法に基づく指示命令が出るまで企業からの積極的な対応は控えることにしている。 ⇒問題が発生する可能性が高い。消費生活用製品安全法に基づく指示を待たずに自主的に問題への調査・対応を行うべきである。 |
c | 生産現場で起こったトラブルは直ちに工場長に伝えられ、工場の独立採算性を勘案して各工場段階で対応処置がとられるようにしており、本社へはその措置のめどが立った段階で報告される。 ⇒問題が発生する可能性が高い。本社への連絡が遅れることで会社としての対応が遅れる。またトラブル隠しが発生する恐れもある。 |
よって、aとbとcはいずれも問題が発生する可能性が高いので解答はエである。
(ア) | 企業は未然にリスクや不祥事等を防ぐべくコンプライアンスを実施するとともに、外部からの予測できない事態に対してはリスク・マネジメントと呼ばれる危機対応を実施することが重要である。 ⇒×:リスク・マネジメントとは各種の危険による不測の損害を最小の費用で効果的に処理するための経営管理手法である。外部からの予測できない事態に対するものではない。 |
(イ) | 顧客の中に企業のアイデンティティを形成することができれば、企業は良好な評判を確立しやすくなるので、日常的にコーポレート・コミュニケーションを展開することが重要である。 ⇒○:コーポレートコミュニケーションとは、企業が一方的に情報を発信するのではなく、双方向的に顧客その他の人たちとのコミュニケーションを図り相互理解を深めること。 |
(ウ) | 人命にかかわるトラブルについては、超正直企業といわれるほどに収益性を犠牲にしてでも、従業員ぐるみで製品の修理や回収を徹底することが必要であり、そのためにはトップの強力なリーダーシップが重要である。 ⇒○:人命にかかわるトラブルには強力なリーダーシップによる全社的な対応が必要である。 |
(工) | 品質管理の失敗は、損失に直結するコストとしてばかりでなく、長期的に顧客の忠誠心を低下させて、将来の収益を損なう経営リスクとしての認識を全社的に促すことが重要である。 ⇒○:顧客に品質に問題がある会社だと思われることは忠誠心を低下させてしまう。品質管理の重要性とリスクを全社的に把握させるべきである。 |
(オ) | 不祥事が発生した場合、企業の不祥事への対応と活動方針を社会に伝えるべく利害関係者に広く情報提供することが重要である。 ⇒○:不祥事が発生した場合、企業の不祥事への対応と活動方針を社会に伝えるべくステークホルダー(利害関係者)に速やかに情報を提供する必要がある。 |
設問2
解答:オ
(オ) | わが国では研究開発能力の低い産業分野に海外研究開発拠点を設ける例が増加しており、近年食品や繊維などの分野の中小企業が海外研究開発拠点を開設する傾向が強まっている。 ⇒×:わが国では研究開発能力の高い産業分野でさらに強みを強化しようとして海外研究開発拠点を設ける例が増加している。 |
設問3
解答:イ
(イ) | ゲーム業界ではゲーム機器メーカーがゲームソフトを買い取ると同時にゲームの開発指導を行うため、ゲームソフト開発メーカーの起業が活発になり、業界の発展を促している。 ⇒×:ゲーム機器メーカーとゲームソフト開発メーカーは売り上げや利益をめぐって対立関係にはない。また必ずしもゲーム機器メーカーがゲームソフトを買い取るわけではない。 |
設問4
解答:ウ
(ウ) | ライバル企業の得意とする技術分野は自社と異なっているが、ライバル企業の技術分野に属する独立の企業を買収して、その技術を独占的に保有することにした。 ⇒×:自社と異なっている技術分野の企業を買収してもシナジー効果は薄い。 |
設問5
解答:
(ア) | BRICsと呼ばれる新興工業国に先進国で成功している製品を持ち込むだけでは、現地の市場に適合的な製品を提供しながら成長を遂げている巨大なコングロマリットとの競争に後れをとることになりやすい。 ⇒○:正しい。なお、コングロマリットとは、複合企業体とも呼ばれ、相互に関連のない異業種部門を傘下に収めて多角的経営を行う企業のこと。 |
(イ) | 薄型パネルテレビでは国内で生産して輸出するという戦略が中心になっているが、それは国際的な水平分業によって生産コストや労務コストを下げるという戦略が展開されているからである。 ⇒×:薄型パネルテレビでは国内で生産して輸出するという戦略が中心になっているが、それは最新技術の流失の防止のためである。すなわち、国際的な水平分業によって生産コストや労務コストを下げるという戦略が展開されていない。 |
(ウ) | 台湾や韓国の薄型パネルの生産規模はわが国を凌駕しているが、その生産に必要な部材の多くをわが国に依存しているので、海外での薄型パネルの生産増加は結果的にわが国の部材メーカーを潤すと同時に、日本製薄型テレビの海外輸出を促進する効果をもたらしている。 ⇒×:台湾や韓国の薄型パネルの生産規模はわが国を凌駕しているが、その生産に必要な部材の多くをわが国に依存しているので、海外での薄型パネルの生産増加は結果的にわが国の部材メーカーを潤す。しかし、日本製薄型テレビの海外輸出を促進する効果はもたらしていない。 |
(工) | パソコン分野では中国での生産の増強や移転の例が見られるが、その理由は労務コストが安価であることに加えて、必要不可欠なモジュール部品のすべてが安価に現地生産されており、実装技術を持ち込めば低廉に生産できるという中国の産業構造の高度化が進展しているからである。 ⇒×:高度なモジュール部品は高価であるし、輸入に頼っている部分も多い。 |
(オ) | わが国の自動車産業では米国への輸出は抑制気味で、現地生産は拡大しており、米国内の自動車販売に占める日本車のシェアも高いが、これは日本の大衆車への需要が強いためである。 ⇒×:日本の大衆車への需要が強いためではなく、貿易摩擦や急激な円高による為替リスクの増大によるものである。 |